事件はすでに起きていました。
時は日曜、月に2回の特売日を迎えた
スーパーのレジでした。
三世代同居が珍しくない遠野では
こうした特売日には、レジカゴ3つ、4つに
品物をてんこ盛りにした家族をあちこちで見かけます。
「お一人さま2点限り」なんていう商品だって
半ダース買うんですもんね。
そしてこういう日のレジは、通常なら
3人も並べば「混んでいる」感に襲われる遠野にあって(自慢)、
10人前後いや、10家族前後が列をなすので
「並んで待つ」ことを経験する
貴重な大混雑状態になるわけです。
そこで事件は起きていました。
子どもが、盛大に泣いているのです。
ギャン泣きする声に振り向けば
隣のレジの列に並ぶパパと3歳くらいの男の子、
男の子はお父さんに抱かれるのが嫌なようで
腕の中で激しく抵抗し
グワングワン泣いておりました。
パパさんが一人で小さな子を連れて特売日のお買いもの…、
子どもの声に振り向いた誰もが、
彼のおかれた状況に自分なりの妄想を重ね
深い同情を禁じ得ない表情を浮かべます。
…ママが病気なのかな?
…一人でできると豪語しちゃったのかな?
…奥さん、実家に帰っちゃったのかな?
にしても、激しい泣き方。
抱きかかえているパパの腹は蹴るし
子ども用の、バスのようになったカートに乗せようとしても
暴れて乗らないし、
涙と鼻水と涎で顔はぐっちゃぐちゃ、
よいしょとパパが肩に乗せるように抱いても「イヤイヤ」
床に下しても身をよじって「イヤイヤ」と
泣き続けるばかり。
ズボンからはみ出たシャツと肌着、
その裾には大きくはっきりと端正な文字で
「 × × り ん た ろ う 」
と書かれていました。
「大変だよね」的な感情が列に並ぶ周囲の人々に湧き、
パパさんの対応を見守ります。
おあんおあんおあんおあん
ここまで泣きこむと何で泣いてんだか
自分でもわかんなくなっているだろうなー。。。
でもパパさん、決して男の子を叱りませんでした。
抱っこしたりカートに乗せようとしたりする間、
ただ男の子の手を握って
決してそれを離しませんでした。
長い列も次第に進み、
やがて泣き続ける男の子とパパさんがレジに近づきました。
ただ「よう泣いてるなぁ」と眺めていた人々に
別の気配が漂いました。
「大丈夫なのか、パパさん、お会計できるのか?」
買い物かごをレジ台に置くのには
両手が必要じゃないですか。
どーすんの?どーすんの?
と危惧する雰囲気に包まれたとき、
それまでの空気が一瞬にして変わりました。
「がんばれ、パパさん!」
みんなの心が一つになりました。
それまでは「あれまあ」「やれやれ」だったのが
一気に応援ムードに変わったのです。
いざとなれば近くの誰もが、お金を払う以外のことであれば
手を貸そうという態勢に変わりました。
レジのお姉さんが手を伸ばして、
よいしょっとバスカートの上のカゴを
レジ台に下しまして、第一関門クリア。
一同「ほっ…」(心の声)
ピッピッピっと清算する間、
パパさん、男の子を両足で挟みました!
そして財布を出して、お会計です!
一同「おおぅっ!」(以下同文)
この後のことは
こちらがすっかり商品を袋に詰めてしまっていたので
見届けることができませんでした。
後ろ髪を引かれながらスーパーを出たわけですが
ワタシは、もし彼が子どもを連れて
無事に店の出口に現れたら、
拍手をもって出迎えたいと心から思いました。
イラ付いた言葉を一つも吐くことなく、
全てをやり遂げた彼に賞賛を送りたい!
ギャン泣きに耐えて、よく頑張った! 感動した!
帰路の車中で、
これはもしかしたらママから科せられた
罰ゲームじゃないかな、とは
ワタシの妄想であります。
盛大に泣き続けたりんたろう君も
買い物ミッションを終了したパパさんも
お疲れさまでした。
家に着いたらきっと二人とも
ぐったりだったことでしょう。
日曜の午睡はさぞ深く。。。
本日の記事は、りんたろう君のママに捧げます。
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